【職業教育の未来を考える特集】 あなたの勤める専門学校は、誰に、何を、どんな風に教えていきますか? 「職業教育の未来」のために、専門学校が今やるべきこととは?(第一回)

キャリアマップ事務局

職業教育の未来を考える特集

~CareerMap編集部より~

昨年11月に開催した職業教育シンポジウムで、テーマを「職業教育の未来を創造する」と置いたように、CareerMapは、職業教育の未来について、常に発見や問いを投げかけていきたいと考えています。


そこで今回は、職業教育の未来をテーマとした新しい特集記事をスタート。

長年、教育社会学・高等教育学・職業教育学・キャリア教育論について研究されてきた、九州大学名誉教授・滋慶医療科学大学教授の吉本圭一先生にお話を伺いました。
職業教育についての広く・深いお話の中から、「職業教育の未来のために、学校機関が今やるべきこと」のヒントとなる提案や情報を、お届けしていきます。

【吉本圭一氏プロフィール】

滋慶医療科学大学教授
九州大学 名誉教授

◆1978年東京大学教育学部卒業、1985年同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、2005年博士(教育学)取得。
1985年から雇用職業総合研究所、後の日本労働研究機構に研究員として就職。
1992年放送教育開発センター助教授を経て1996年から九州大学に移動。2008年から人間環境学研究院教授、主幹教授の称号、教育学部長、第三段階教育研究センター長を兼務。
2020年4月より滋慶医療科学大学に就職し、現在にいたる。

ご紹介

教育社会学を専門とし、特に大学・短大・専門学校等の第三段階教育を中心に、実証的政策科学的な研究教育を行なってこられました。

インターンシップや専門的な実習など、学術と職業の往還する職業統合的学習に注目し、現在、日本職業教育学会会長ならびに日本インターンシップ学会会長を務めておられます。

学修成果とコンピテンシー、教育から職業・社会への移行とキャリア形成などを、国際比較等を通して解明しています。

これらを踏まえ、第三段階教育における学術的アプローチとキャリア教育・職業教育アプローチとの組合せ、目的・方法・ガバナンスにかかる複眼的モデルを探究されています。

◆第一回テーマ◆

「専門学校教育の「質」について、現状整理と未来への課題」

  • 専門学校は、「教育の質が制度上担保されていない」のか?
  • 大学とも高校とも違うもの:Ⅰ「学修成果」の確立
  • 大学とも高校とも違うもの:Ⅱ「教員」

専門学校は、「教育の質が制度上担保されていない」のか?

2014年7月に行なわれた教育再生実行会議第五次提言において、「専修学校専門課程(以下、ここでは専門学校と呼ぶ)は、教育の質の保証が制度上担保されていないことにより、必ずしも適切な社会的評価を得られていない」という指摘がなされました。これは大変厳しい発言ですが、専門学校が持つ制度上の難しさを指摘しています。

というのも、一般に専門学校は、高校を卒業した後に進学する「大学に次ぐ高等教育機関」と見なされています。

そして大学には、「教育の質の保証」を担保するためのチェック機能として、第三者評価を含む評価体制が、長い年月をかけて確立されてきました。
しかし専門学校は、「大学に次ぐ高等教育機関」と見なされながらも、学校制度としては中等教育・高等教育の両方を担う専修学校制度の一部であるため、自己点検・評価の制度においては、学校教育法第133条で小学校の自己点検評価を準用することとしか規定されていません。

これが、「教育の質の保証が、制度上担保されていない」と言われてしまう理由です。

しかし実際には、この厳しい指摘を受ける直前には「職業実践専門課程」がスタートしており、この課程がさらに充実することで、一定程度は質の保証が担保できていると見直されるようになると考えています。

特に、大学等では評価・質保証が機関レベルで行われるのに対して、専修学校では、教育プログラムレベルでの質の保証が図られていることも大切なポイントです。

大学とも高校とも違うもの:Ⅰ:「学修成果」の確立

「教育の質の保証」の鍵になるコンセプトとして、学修成果(ラーニング・アウトカム)があります。

本来、学修成果やコンピテンシーに向けて教育をするというのは専門学校の特徴です。
しかし今や大学も、それを意識し始めています。

そこで必要となってくるのは、各教育プログラムがいかにゴールを設定するか、ということ。
専門学校でも、「それぞれの求める学修成果を明確にし、各学校が目標設定をするように」という政策議論がなされています。

しかし、学校が単体で適切なゴール設定を行うのは大変難しい。
そこで、私たちは、いま職業能力と学修成果に関して、「大学、短大・専門学校、高校それぞれの課程修了時の学修成果の適切なレベル設定をすること」を、科研費補助金を得てひろく共同研究しています。

国家資格取得を目的とした専門学校なら、そのレベル設定はわかりやすいのですが、それ以外の教育プログラムではどこをゴールレベルとするのか。

例えば、同じ職業に向けた教育を受けた場合でも、大卒者は「実践に弱い」が、専門学校生は「実践に強い」。
けれども、実践に弱かった大卒者に、就職して現場経験を積むことで追いつかれてしまうなどと言われることがあります。

しかしこれは、比較的多くの意見であるとしても、きちんとした基準もない主観的な評価にしか過ぎません。

もし、それぞれの卒業時の目標レベルの設定が標準化されていれば、それぞれの卒業生の実践的能力のどこが優れているのか、何が劣っているのかが明確になります。

また実践力では先行し追いつかれる可能性がある専門卒者についても、逆に大卒者と比較すると「教養」が弱いなど言われますので、大卒者が目標とするどのような知識やものの見方が欠けているかを把握し、就職してどこかのタイミングでそれらの能力開発を行うという方向が見えてきます。

また、国内の各学校卒業者の適切なレベルが設定できれば、それは多くの海外諸国で作られている学位・資格枠組み(NQF)で比較することで、学生の国際的な移動を促進できます。

留学生を、それまでの学修経験や能力レベルに応じて見立てをし、どのレベルで入ってきたとしても、教育プログラムの学修成果に即して、関係の学校への入学・編入学など適切な受入れをすることができ、新たな道筋ができると考えています。

大学とも高校とも違うもの:Ⅱ:「教員」

専門学校には大学とも高校とも異なる特徴として、教員の要件もあります。

まず高校は、当然のことながら教員免許が必要です。
長い時間をかけ専門の教科や生徒指導・特別活動等にかかわる領域、教職の在り方などについてひろく学びます。

これに対して大学には、大学設置基準で教授・准教授などの要件を定めています。
たとえば教授であれば、極端に言うと「博士号を持っていること」しか原則的な要件はありません。
そして大学教員ための専門の養成課程というものはないのです。

大学では「博士号」を通して研究能力を培い、教育と研究を統合する大学においては研究能力を通して教育も可能となると考えるのです。

それでは、専門学校はどうか。
要件としては高校卒業後に専門教育+実務経験で合計6年以上あれば良いとなっています。

現場では、教育指導の経験ではなく、それぞれの職業での専門実務の卓越性を評価して、いわばその職業のプロを教員として採用することになります。

大学の教員にも採用時点で教育指導力をはかる基準はありませんが、やはり指導力は必要とされることから、現在ではFD(ファカルティ・ディベロップメント)による能力開発が義務化されています。

私は、専門学校の先生には、大学とも高校とも違う、教員の養成・育成の仕組みが必要だと考えています。

例えばオーストラリアでは、高等教育レベルの多くの職業教育機関(TAFEなど)で、教育指導経験のない職業のプロを教員として採用します。
その場合、いったんは教員候補として採用しますが、その上で、関連する仕事をしながら教員研修プログラムを受け、1年程度で職業教育教員の資格を得るという仕組みがあるのです。

このような取り組みが、将来的には、日本の専門学校の教員にも必要になるのではないかと思っています。
実務経験を積む中で、上司として部下を指導した経験はあっても、就職前の若い生徒たちの集団を学校で指導できるかどうかは未知数です。

大学のような「研究と教育の統合」という理念で突き進むなら良いけれど、高等教育段階の職業教育の場合にはそういうコンセプトがないため、必然的に「教育指導力」は大学以上に求められることになります。

そして、その職業教育コンセプトを明確に定義づけようとしているのが「職業実践専門課程」です。

ですから、この「職業実践専門課程」において、適切に教員のあり方を規定し、またその能力開発の方向を示していくことこそが、専門学校のこれからの教育の質を支える柱となって行くと考えています。

~編集部より~

ここまで、専門学校の「教育の質」の現状について、お話しを伺ってきました。

職業教育において、大学とも高校とも異なる現状を把握した上で、今、そしてこれから専門学校で学ぶ学生たちのために、学校機関は何をなすべきか。

次回は、「教育の質」を高める「教員の能力開発」について、ご紹介します。

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