進路指導研修会レポート ~ジョブ型雇用、パラレルワーク、AIの進歩…~ 「働き方多様化」の未来に備える進路指導のススメ

キャリアマップ事務局

 

8月25日(金)ハリウッド美容専門学校で行われた専門職高等教育質保証機構主催の「教員向け進路指導研修会」にて、CareerMapおよびCareerMapLabo編集長である板倉真紀が講演を行いました。高校の進路指導に携わる先生方に向けて、進路を考えるうえで欠かせない「高校生たちが生きていくこれからの世の中で、働き方はどう変わっていくのか」について、さまざまなデータをもとにお話しさせていただきました。講演後、ご参加の先生方から「学校の中にいては、知り得ない話だった」と好評をいただいた内容を、ダイジェストでお届けいたします。

 

「DX」「グローバル」「ChatGPT」…これらが、目の前の生徒たちの未来とどう結びつくか、先生方はご存じですか?

「DX」「グローバル化」「労働人口減少」「パラレルワーク(副業)」「リモートワーク」「働き方の多様化」「ChatGPT」…これらは、「働き方をガラッと変える」という話によく出てくる言葉たち。聞いたことがあっても、「目の前の生徒たちの来年・再来年の進路指導と、その言葉たちがどう結びつくのかイメージできない」という教員の方は多いのではないだろうか。板倉編集長の今回の講演で語られたのは、すでに起きている社会の変化、そして生徒が社会で活躍するために必要なものは何か?という話だった。

 

「ヒトの仕事は、AIにとって代わられてしまう」のか?

AIによって自動化される職種として予測される筆頭は、事務系職種(図1)。これは以前より予測されていたことで、驚きはない。しかし、すでに日本より自動化が進んでいるとされるアメリカで、労働市場においてある予想外の結果が出ている。

仕事を「高スキル」「中スキル」「低スキル」と分類した時に、これまで「低スキル」の仕事がなくなると思われていたが、自動化によりAIにとって代わられる仕事は、実は「中スキル」の仕事だった(図2)。理由は簡単で、「低スキル」の仕事は単価が安い。そんな安い仕事のためにロボット開発に投資はしない。つまり、将来的に、世の中は「低スキル」の仕事と「高スキル」の仕事の二極化が進むということで、すでに日本でもその傾向は出始めている。

 

▲図1

 

▲図2

 

板倉編集長)

まず覚えておいていただきたいのは、「低スキル」と「高スキル」の賃金格差は、時給に換算して約100倍あるということです。時給1000円VS時給10万円です。ぜひ、生徒さんたちに「どっちになりたい?」と聞いてみていただきたいんです。自分がどの時給のスキルを身に着けたいのかというのは、自分の将来を考えるひとつのきっかけになると思います。


AIにも外国にも負けない人材育成が必要。その人材像は「真面目」でも「ちゃんとしてる」でも、ない。

経済産業省が設置した「未来人材会議」が、2022年に発表した「未来人材ビジョン」は、産業構造の変化やデジタル化、世の中の脱炭素化などの潮流をふまえ徹底的に議論を行い、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と具体策を示したもの。(経済産業省のホームページから、議論内容も含め誰でも閲覧可能)。将来を担う人材の人材像や必要とされる能力にも踏み込み、求められるものが変化していると説いている(図3)。

 

▲図3

 

板倉編集長)

これまでに必要とされていたことと、今後必要とされる能力は変わってきています。2015年は、真面目さや責任感、言われたことをきっちりやる能力が必要でした。でもそれは、「AIにできること」なんです。2050年には、人材に必要とされる能力は大きく変容し、「問題発見力」や「革新性」「的確な意思決定」「情報収集力」などが必要とされています。そして、それらが求められる職種・分野は、2050年になっても需要があることが予測されています。(図4,図5)

 

 

▲図4

 

▲図5

 

板倉編集長)

DX化の進化などは、本当に目まぐるしく変化しており、今の若い世代は、過去のことが役に立たない、想定外のことが起きてくる時代に生きていると言えます。何が起きるのかわからないのであれば、せめて自分が夢中になれることに集中させてあげたほうがいい。どうせ、大人がああだこうだと言ったところで、何が起きるか当たるわけでは、もうないんです。だったら、自分が自分で夢中になれることをやらせてあげるのが正解ですよね。例えば、私たち大人世代との大きな違いのひとつとして、今の子たちは、社会課題とかグローバルに、感度が高い。例えば大学生では、就職先を探す基準に、グローバルスタンダードや、社会課題の解決に向き合ってる企業かかどうか、というのが入っています。こういう意識や行動を伸ばしてあげれば、正しい解に自分でたどり着くのではないかと思っています。

 

「キャリアの多様性」って、なに?

少し“しんどい”データを連ねる。今の日本の「働く人たち」の現実を知っていただくためだ。

▲図6 日本人は、今働いている会社が好きじゃない人が多い。

 

▲図7 だからといって、転職も独立もしたいわけではない。

 

▲図8 そして日本は、昇進が遅い

 

▲図9 人材の国際競争力も下がる一方

 

▲図10 東証一部上場企業の総資産は、GAFAM5社の総資産に負ける

 

板倉編集長)

夢がないですね。でも、残念ながら現実です。東証一部上場企業に入ったら楽勝っていうこれまでの考え方も、もう違うということがお分かりいただけるかと思います。世界で負けっぱなしですからね。たとえ東証一部上場企業だとしても、会社だけに自分のキャリアを任せていたら、ダメ。自分で自分のキャリアを創って、個人の能力をもっと発揮できるようになれば、働くことに対する姿勢も競争力も変わってくると思います。

 

実は、日本はキャリアが「単線」だと言われている大学卒業直前、つまり就職活動をする時まで、誰も自分のキャリアを考えない。そして、学校を卒業して、就職して、会社任せのキャリアを積むことを良しとしてきた。しかし、これからは、自分でキャリアや人生設計を複線化し、多様なキャリアを持つ人材が、自分の能力を発揮して働くことが必要だというのだ。

 

板倉編集長)

キャリアを複線化するためには、多様性を持たなければなりません。それを許容できる社会であることが重要です。リスキリングや、失敗してもやり直せる社会であることが大切なんです。大学卒業直前まで、ほとんどの人が自分のキャリアを考えたことがないという現状も、もはやちょっと異常です。というのも、実は学生たちの「卒業後の出口」である「企業」は、競争力などの観点から、もう待ったなしの状況になってきているのです。

 

長らく、日本の就職は新卒一括採用がメインで、ジョブローテーションの中で適性を見極めて育てていく「メンバーシップ型雇用」が行われてきた。しかし、近年、通年採用や職種別採用が増加し、採用手法も多様化してきている。スキルを持つ人材を専門職として採用し、スペシャリストとして育成する「ジョブ型雇用」の需要が高まっている。

 

板倉編集長)

ジョブ型雇用の需要の高さを示すもののひとつとして、初任給を調べてみました。専門学生は、「専門職」として就職しますので、私たちが運営する専門学生の就活サイト「CareerMap」で初任給TOP5を調査したところ、2022年度卒募集では「理学療法士」の初任給が35万円でトップ、2023年度募集のトップは「プログラマー」で、初任給は42万円でした。改めて、専門職の需要の高さが浮き彫りになっています。

 

自分で自分のスキルを掛け合わせて100万分の1の人材になる

高等学校・専門学校教職員向けの職業教育専門誌「CareerMapLabo」では、創刊以来、さまざまな観点から、専門職や職業教育について取り上げてきた。自らのキャリアの複線化、自らの専門性の創り方について、興味深い話を聞かせていただいたのは、創刊号の巻頭インタビューでの“教育界の改革者”藤原和博氏。「3つの専門スキルで100万分の1の人材になる」という話だ。

 

板倉編集長)

単一キャリアでは強みが作れない、複線化が必要というお話をしてきました。それは、要するに「食いっぱぐれない」ためです。言い換えると、希少価値の高い人材になるためですね。単一キャリアで希少価値の高い人材を目指すとしたら、大谷翔平さんや藤井聡太さんを目指すようなもので、とても難しいことがわかります。そこで藤原和博氏が提唱されているのが「キャリアの大三角形」です。図11の①のように、まず100分の1のキャリア形成として、20代までにまず1歩目の足場を作ります。次に30代でさらに100分の1、40~50代で本格的に3歩目の100分の1の3歩目を踏み出して、キャリアの大三角形をつくれば、すべてを掛け合わせたら100万分の1の人材になっているというものです。

▲図11

 

最初に何をして、次に何をして、最後にどうするか、自分で試行錯誤し、「選びに行く」のが重要。会社に任せてたら絶対にダメなのだ。会社では、2歩目を踏み出させてもらえない。なぜなら、最初の100分の1の人材で、会社としては十分便利だから、である。

 

板倉編集長)

少し耳の痛い話をしますと、先生方は、ご自身のキャリアについてどれくらい考えられたことがあるでしょうか。10年後に何をして、次の10年後には…と考えられたことはありますか?このキャリアの大三角形にあてはめて、ぜひご自身も考えていただきたいんです。そうでないと、生徒に「キャリア」について、話せないと思うんですよね。

 

最後に、進路指導はどうあるべきか?

▲図12

 

板倉編集長)

不確実な未来における、高校生の進路指導に必要なことはなんでしょう?図12のように、たくさんあります。

と、Chat-GPTが言ってます。はい、これ、Chat-GPTに答えてもらったものです。

図13

 

板倉編集長)

正しそうな答えなら、Chat-GPTが5秒で出してくれる時代です。読んだら、「いいこと言ってるな」って思っちゃうようなこと、あっという間に答えてくれちゃう時代です。こんな時代に何が必要なの?と思います。そう、ここなんです。図13の赤丸の部分。答えを出すんじゃなくて、「どうやって機械に答えを出させるか」という「問いを立てる」のが、人に必要な力です。どういう言い方をすれば、その答えにたどりつくか、意外と今の子供たちは得意です。小さいころから、ずっと検索し続けてきてますから。それを伸ばしてやるんです。当事者として、自分で考えることが大事なんです。

先生方も、今の時代、生徒にどう進路指導したらいいかわからないと日々悩んでおられると思います。企業も同じです。企業も、この先どうなっていくかわかりません。誰にも答えはわかりません。わからないから、一緒に考えるしかありません。当事者である生徒たちに、考えさせることが重要だと思います。

 

スピードが速く、不確かで、予測のつかない変化が起きる時代。「もっともらしい、答えらしきもの」を数秒で機械が答えてくれる時代。誰にも先はわからないのだから、子どもたちが「自分で考える力」を養うために、先生方も一緒に考えていこう。そう呼びかける板倉編集長へ、講演を聞いた教員の方から「大学は、この学部を出たらこの業種という明確なものがないので、キャリアを考えたら進学先の学部はどう選べばいいのか」という質問もあった。「大学は研究機関であり、厳密には就職するための場所ではないので、進学するのであれば、自分が本当に何を学びたいかを自分で考えて選ぶのが最良ではないか」と、何を選ぶにせよ、自分で考えることが大切だと答えた。

 

~講演会アンケートより~

★本講演の満足度を教えて下さいという質問には、90%の方が満足と言っていただけました。]

◇満足…18/20  ◇やや満足…2/20 ◇やや不満…0 ◇不満…0(アンケート回答数20)

 

★本講演の感想

  • 学校勤務しているだけでは知り得ない、気づき得ない様々なことを教えて頂けて非常に有意義な時間でした。(H高校 K先生)
  • 最新のデータを示してくださったので納得できた。専門学校への進学の意義も再認識できた。(O高校 O先生)
  • 大学卒業後すぐ教職につき、漠然と定年まで教員を続けようと思っている私にとっては、雷に打たれたようでした。自分だけの強みを作るためにも、自身のキャリアに向き合いたいと思います。(T高校 N先生)
  • 夢中を手放さず、ひとつのことを掘り下げる姿勢が大切だと思った。失敗してもまたやり直せる社会へと転換していかなければならないと感じた。(A高校 K先生)
  • 機会があれば、生徒・保護者にもぜひ聞かせたい(K高校 M先生)
  • 大学進学だけの進路指導は、勉強する生徒に対しては良いが、キャリア教育として正しくないと思っていましたが、今日の専門学校のお話を伺って確信しました。(M高校 I先生)
  • 高校やほかの研修では、進路指導の入り口の部分に関する情報が多いので、出口について知ることができて良かった(M高校 T先生) 

このほか、たくさんの感想をいただきました。ありがとうございました!


【講師のご紹介】

株式会社グッドニュース 取締役 

キャリアマップ編集長 板倉真紀

株式会社リクルート入社、HR領域において、企業の採用課題を解決することから、採用のその先にある課題(インナーコミュニケーション領域)までを手掛ける。業務としては、求人広告・企画商品の制作分野、求人メディアの編集企画が中心キャリア。その後、事業会社の人事として、外資系ベンチャー立ち上げ・機械メーカーでの機電系人材、経営幹部人材の採用人事、製造業での総務人事部長を経験。グッドニュースに入社し、キャリアマップ編集長に就任。また編集長として、職業教育情報誌「CareerMapLabo」創刊。





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