職業教育の未来を考える 〜特別編〜 トークセッション vol2. 吉本圭一先生(滋慶医療科学大学教授) 井手修身先生(イデアITカレッジ阿蘇 学校長)

キャリアマップ事務局

 

 

人口1万人の村から発信する新しい職業教育の形。
“出口”から発想する「イデアITカレッジ阿蘇」の挑戦

~後編~

職業教育研究の第一人者・吉本圭一先生が、熊本県南阿蘇村に新設された専門学校「イデアITカレッジ阿蘇(略称IICA=イーカ)」を訪ね、井手修身学校長と対論を重ねるインタビュー企画。前編では、同校独自の「注文式教育」を中心に、同校が推進する新しい職業教育の方向性を紐解きました。今回も引き続き、話題豊富なトークセッションのようすをお届けします。

 

吉本圭一氏プロフィール
滋慶医療科学大学教授 九州大学名誉教授
1978年東京大学教育学部卒業後、同大学院教育学研究科を経て2005年、博士(教育学)取得。2008年から九州大学人間環境学研究院教授、主幹教授の称号、教育学部長、第三段階教育研究センター長を歴任。2020年より滋慶医療科学大学へ。
専門は教育社会学。特に大学・短大・専門学校等の第三段階教育を中心に、実証的政策科学的な研究教育に従事。学術と職業の往還する職業統合学習に注目し、現在、日本職業教育学会会長ならびに日本インターンシップ学会会長を務める。

井手修身氏プロフィール
イデアITカレッジ阿蘇 学校長・理事長
熊本県南阿蘇村出身。熊本大学卒業後、1986年、㈱リクルート入社。同社在籍中、後にライフワークとなる地域活性事業に携わり、2006年、地域活性化の企画プランニングを手がけるイデアパートナーズ(株)を福岡市で設立。内閣府の「地域活性化伝道師」に任命され、観光振興や集客施設の立ち上げなど、九州を中心に100以上のプロジェクトを手がける。2016年以降、震災復興の一環として南阿蘇村への学校誘致活動に関わる中で自ら専門学校設立を決意し、2021年3月、学校法人イデア熊本アジア学園設立。2022年4月より現職。

 

吉本 1期生は33名ということですが、学生募集はどのように? 入学者の出身地の分布など、学生のプロファイルとあわせてお聞かせ願えますか。

井手 新設校ということもあり、募集活動は熊本県内や近隣県中心に進めました。ただ県内出身者は日本人学生の6割強にとどまっています。次に多いのは、実は通信制高校の出身者です。募集を進める過程で、自然の中でITを学ぶIICAの特性は、通信制高校の生徒にもフィットするのでは?と考えたのが始まりです。そういう子たちにとっては熊本だろうが福岡だろうが、立地はあまり関係ないですよね。通信制高校とIICAの親和性は明らかに高く、今後は全国から来てもらいたいのですが、いかんせん知名度がありません。

吉本 いやいや、これからでしょう。外国人学生の募集活動は?

井手 初年度は、自分たちが動ける九州内の日本語学校への働きかけに終始しました。ただ政変に揺れるミャンマーに関しては、ぜひ本国からダイレクトに呼ぼうと、ミャンマーと縁が深い副校長を中心にクラウドファンディングを立ち上げて700万円を集め、学費免除で4人が入学した経緯があり、現在は入管の判断を待っている状態です。ともあれIICAの学生募集は、地元の子が地元の専門学校に…といった一般的な枠組みにとどまらないことは確かです。そうした募集対象にどうリーチしていくかが、今後の課題です。

吉本 その方向は素晴らしいですね。関連してぜひお聞きしたいのが、学校の立地と紐づいた学生生活のデザインについてです。ここでの毎日は、ターミナル駅に近いビルに教室があり、放課後は周辺の雑踏でユースカルチャーに触れて羽を伸ばすというような、一般的な大都市市街地立地の専門学校とは正反対でしょう。そのあたり、どのようにお考えですか。案外、余計な目移りがなくていいのかな(笑)

井手 ごらんの通り、ここは何もないですからね。とはいえ震災の前は東海大学があって、学生村もありました。もともと学生を受け入れる土壌があり、観光系を中心にアルバイトの求人も学生数の倍くらい来ます。その大半が送迎付きですよ。でないと帰れませんから(笑)。

吉本 IT系のアルバイトはどうですか? うまくすれば、注文式教育との相乗効果でPBL的な効果にもつながりますよね。

井手 実は先日、大阪のIT企業から打診があったばかり。業務に関連する課題を出す、いってみれば有償インターンに近いような話ですね。また本社が東京で、全国で古民家改造を進めている企業からも、先々の採用もにらんだお話がありました。

吉本 コロナ禍でオンラインインターンシップの議論が熱を帯びてきていますし、阿蘇×DXという関連で、いい流れがつくれそうですね。学生募集でもアピールできます。

井手 都会を志向しない学生しかここには来れないと思いますし、ある部分、それでいいんじゃないかと。開校して数か月経ち、学生たちの間で、下宿の大家さんや地域の方とのコミュニケーションを図る動きが出ています。まわりに商業施設や遊ぶ場所がないなら、今までにない楽しみや遊び方を自分たちでゼロから考えようとしている姿勢の表れで、私たちにしてみれば待ってました!と言いたくなるような理想的な展開です。何もない、言い換えれば、すべてが与えられていない環境というのはそういう意味でも面白いし、それを面白いと思う子に来てほしいですね。

 

吉本 学生の話題が出たので、先生についてもお聞きします。授業では、注文式教育の提携企業40社すべてが講師を派遣しているんですか?

井手 いえ、一部ですよ。うちの事務長が高専出身ということもあり、企業内教育や専門学校での経験を持つ高専の先生に何人か来てもらって、IT関連の基礎的な講義をお願いしています。

吉本 やはり先生がポイントになりますよね。出口を設定したら、そのゴールを実現するためのカリキュラムを動かす布陣を固める必要がありますが、IICAの場合は注文式教育で基本的な形ができています。職業実践専門課程はもう設定されたのですか?

井手 申請は開校から2年経過した完成年度と理解していますが…

吉本 当初はそうでしたが、今は1年目でも可能です。実務家の先生を揃え、企業との連携も密なIICAの教育を一般に、特に高校関係者に向けて可視化する意味でも、検討する価値は大いにあると思います。今後に向けても、引き続き先生がポイントになるでしょうね。実践的な職業教育には実務家の企業人講師が必要不可欠ですが、若い学生たちを教えるには、企業の後輩指導とは異質の難しさがあります。

井手 事務長を中心に次年度のシラバスを仕上げているところですが、カリキュラムを動かしながら教育の質をどう上げていくか、大きな課題だと感じています。

吉本 企業内教育は明確にアンドラゴジー(成人学習学)、成人向けの教育です。ところが専門学校の教育は、職業教育という意味ではアンドラゴジーだけれど、まだまだ成長過程ですからペタゴジー(学校学習学)、つまり子供を対象とする教育学に依拠する要素を十分に盛り込む必要がある。端的に言うと学びへの動機づけですね。そのあたり、IICAではいかがですか?

井手 意志を持って学び続ける力というのは、IICAでも特に重視して育成している部分で、開校当初は毎朝30分のホームルームを設定し、学生個々が何のために学ぶかを明確に意識するところまで踏み込みました。それとは別に、私自身が講師となって、次世代を担う人材になるための共通認識を涵養する講義も行っています。

吉本 専門学校の2年間で何ができるかということは、常に考えていく必要があります。ある専門学校では、就職が決まった後に業種別・職種別に再度クラス分けをして、就職先のニーズに的を絞った授業を行っています。これなども実質的に注文式教育といえるかもしれまぜん。

井手 なるほど、ラストの半年間で企業が求めるスペックに仕上げる、と。IICAでも、内定後の長期インターンシップという形が考えられるかもしれませんね。ただ大学の4年と比べるとスピードが速すぎて…

吉本 大学教育は卒論がゴールですが、そのはるか手前で就職が決まってしまう。そこに4年制大学のジレンマがあります。

井手、その点でいえば、IICAは最初の1年で一定のアウトプットを出せるイメージで育成していますから、より実践的といえるかもしれませんね。いいお話をうかがえました。

 

 

吉本 さきほど校内を拝見しましたが、いい空間がありますね。縦に長い、つまりビル立地の都市部の学校と違って横に長い。フリースペースで寝転んでいる学生もいました。

井手 共用部分が多いので、気分的にもゆとりがあります。通信制高校出身の学生の中には、高校までは自室から一歩も出ないような生活だったのに、入学後は毎日元気に通学し、親御さんを喜ばせている子もいます。自然も含めて、ストレスが溜まらない環境なんでしょう。環境といえば、地域からのサポートも多角的です。先日も村の若手コミュニティの方から、そろそろ何か連携を、というお話がありました。

吉本 よいですね。また、そういうメンター(地域の兄貴・姉貴的なアドバイザー)がついていることも強みですね。

井手 学生村の復活を目指す東海大学OBなど、コアなメンター候補が山ほどいます。

吉本 そうしたサポートが広がれば、都市部の学校にはない良さがどんどん出てきます。いずれまた、経過を見にうかがいたいですね。有名な一心行桜が咲くころにでも。

井手 ぜひいらしてください。お待ちしています。

吉本 今日はありがとうございました。


取材後記 吉本圭一

IICAの周辺には、阿蘇の大自然が広がっています。都市そのものがキャンパスとして機能する一般的な駅前立地の専門学校と比較すれば、あらゆる点で異質なこの場所で、果たして専門学校が成り立つのか。IICAが掲げる注文式教育は確かに画期的だけれど、職業実践専門課程を支える企業がどれほど存在するのだろう―― 訪問前に抱いていたいくつかの疑念は、現地の空気に触れ、井手学校長のお話を聞くうちに、きれいに氷解していました。
40社に達する注文式教育の提携企業。300社を超えたというIICAサポーター企業。そして学生たちを支えるメンターとしても力を発揮できる、地域住民の応援。学校と学生を温かく支える善意のコミュニティがすでに確立されている、その点がIICAの強みであり、可能性の源泉だと感じました。職業実践専門課程にむけた整備など、まだまだ課題も散見されますが、継続的な取り組みを通じて解決できる範囲でしょう。震災復興に注ぐ地元の熱意と、地域活性化をライフワークとする井手学校長の構想。この価値ある融合が、IICAでどんな化学変化を起こし、職業教育の未来にどう貢献できるのか。大いなる期待を込めて、今後の展開に注目したいと思います。

(学生コラム)

将来は日本でITエンジニアとして活躍したい

マナンさん(23歳)
ITソリューション学科 インド・ムンバイ出身

インドで機械工学を勉強した後、日本の技術を学びたくて2019年に来日し、日本語学校在学中にIICA開校の情報を知りました。入学を決めた理由は2つあって、ひとつはITを本格的に勉強したいということ、もうひとつは阿蘇の自然環境が魅力だったからです。授業は始まったばかりですが、ネットワークとかWebプログラミングに興味を持ち始めています。私は常々、自分の仕事に誇りを持ち、勤勉に努力を続ける日本人の姿に感銘を受けています。将来は日本で就職し、日本にずっと住んで、ITエンジニアとして活躍したいと考えています。

 

南阿蘇の農家でアルバイトを始めました

廣瀬 賢人さん(19歳)
ITソリューション学科 熊本県立鹿本高校出身

入学の決め手は注文式教育。最先端のIT技術を企業で活躍するエンジニアから学べるなんて、面白そうじゃないですか。外国人学生と一緒に学べる環境も志望理由のひとつ。今日の「IT基礎」の講師も熊本市内のIT企業の方で、マナンさんや他の外国人学生と教え合いながら頑張ってメモを取りました。勉強以外では、最近アルバイトを始めたんですよ。バイト先は村内の農家。お米、ジャガイモ、野菜…何でも作ります。将来の進路は未定ですが、最近サイバーセキュリティにがぜん興味が湧いてきたところ。毎日、楽しみなことだらけです。

 

 

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